AKB48のアイデアはどう生まれたか

AKB48とは

説明も不要な気もしますが、とはいえ知らない方もいるかもしれません。

AKB48とは、アイドルグループであり、秋元康氏がプロデュースした企画です。素人に近いがアイドルを目指す女性アイドルで、秋葉原を拠点に「会いに行ける」アイドルというのが話題になりました。今はどうかはほとんど知りませんが、世の中を席巻した企画と言えます。

AKB48はどう生まれたか

AKB48自体への興味はさほどないのですが、企画としてどう生まれたかが気になって調べてみました。ある本でインサイトとして紹介されていたのが違和感があって調べたというのが直接の動機です。

プロデューサーである秋元康「企画脳」は以前読んだことがあり、良い機会なので再読して該当該当箇所をピックアップします。ちなみに後半は自己啓発に近いかもという印象を受けたので、面白そうなところを狙って読む方がいいかもしれません。カルピスの原液を作れとか、予定調和を壊すとかは参考になった気がします。

AKB48のアイデアは色々な「記憶」を転がして組み合わせて生まれた

まず結論としては、いわゆる企画や発想の王道と捉えて良いと感じました。つまり、秋元氏的には、記憶が色々あって、それらを転がして、アイデアとして色々考えるうちに出てきた企画アイデアとなります。インサイト的な意味で「アイデアに会いに行けない不満」は、一つの要素ではありですが、それを狙っただけではないという理解が着地としてはしっくり来ます。

いくつかのアイデアや要素が合ったということ、記憶があったということを以下引っ張り出してみます。

1つ目の記憶:何かを目的にその場所に行くことがすごい

 僕の企画ではじまった「AKB48」というプロジェクトがある。次世代の可能性のある女の子達を発掘し、もっともエネルギーのあふれる街、秋葉原から新たなアイドルを誕生させようという試みだ。

 コンセプトは、「会いに行けるアイドル」。オーディションによって選ばれたメンバーが、専用劇場の「AKB 48 劇場」で毎日ステージを行ないながら、全国区デビューを目指すというものである。

 もともとの発想は、劇団とか、ロックグループとか、バンドとかの話を聞いた「記憶」からはじまった。彼らによると、「いやあ、はじめは客が入らなくて、二〇人ぐらいだったんですよ」

 必ずと言っていいほど、そんな話になるのだ。

 ところが僕はテレビ出身なので、手掛けた番組が放送されたら、いきなり一〇〇万人単位から考えがはじまる。全国にネットされた番組の視聴率の一パーセントが、一三〇万人という世界だからだ。しかし、テレビの視聴者はいわば通りすがりの人々だが、何かを観たり聴いたりすることだけを目的に、その場所に行くという人が少しずつ増えていくのはすごいことだなと思ったのだ。

 たぶん、これからの多チャンネル時代、通りすがりの人だけを待っていても、観るものがいっぱいあるから、同じことをやっていては勝てるはずがない。だとしたら、定点でやろう。立ち止まって、そこだけで観られるようにしようと考えたのだ。

秋元康「企画脳」、位置40より引用、太字は筆者注

会いに行けるアイドルというコンセプトは当然コンセプトがいきなりなのか、組み合わせて出てきたかの時系列は置いておいて、後付けといっていいでしょう。実際にはアイデアの明確な見え方は浮かんだり消えたり色々な形を伴うのでコンセプト自体が顕在化するのはそこまで細かく考えなくていいと僕は思っています。とはいえ、一応著者の提示するコンセプト通りということで確認でした。

上で言えば、最初に売れないバンドだけど、そもそもテレビに出たら売れる(という時代は既に過去ですが)というところがすごいとかでなくて、そもそもそういう時代があって、そこでライブに来る人達を注目しています。もっといえば、テレビは一杯見るけど「通りすがり」でしかなくて、観に来てないという状態だということを言っています。テレビ側の人間と思っていると見過ごすわけですが、テレビ番組なりを作る側でいながら批判的にも見られるというのは面白いですよね。

この1つ目の記憶とした「記憶」に深い意味はないです。著者的にはキーワードですが、体験とか気づきとか感じたこととか、得たこと、経験でもなんでもいいでしょう。

2つ目の記憶:おニャン子クラブでの経験

そういえば「おニャン子クラブ」を手掛けたときも、少しずつファンが増えて、人が人を呼んで広がっていった。そんなアイドルを育てることが面白いかもしれないと思って、アイデアを転がしているうちに、

 「ああ、そうだ。会いに行けるアイドルにしよう」  

 そう思いついたのだ。

同上、位置54より

これも時系列はバラバラですが、一ついえるのはおニャン子クラブでの企画経験があるということです。本書での該当箇所が参考になるので合わせて引っ張ってきます。

 あの「おニャン子クラブ」が当たったのも同じ理由だろう。

 当時、世間には、「アイドルとはこういうもの」 というステレオタイプがあった。大手プロダクションが可愛い子をデビューさせて、フリフリの衣裳を着せて、「好きな食べ物は?」 と聞かれたら、「クレープ」だとか「フルーツパフェ」などと答えさせ、判で押したように、「ボーイフレンドは、いません」というのが決まり文句だった。

 生活感のない、ある種の「夢見る人形」が、アイドルであったのだ。

 それに対して僕が手掛けたのは、もっと生活感のある女子高生たちである。中間テストや期末テストになると、平気で番組を休んでしまう普通の生活をしているアイドル。芸能活動より学業を優先させることで、視聴者に「私たちと同じなんだ」という気持ちを持たせたのである。

 大手プロダクションがつくった既成のアイドルというのは、むしろ学校を休んで芸能活動をするのが普通だったから、テレビの仕事を休むわけがない。

 反対に、テレビのほうを休んで学校を優先させてしまうところに、裏切りの要素があった。

 つまり「管理しないアイドル」という裏切りの企画が、おニャン子クラブの独創性であったのである。

同上、位置921より、読みやすさのため若干のレイアウト等変更あり

ここでおニャン子クラブの本質、つまり着眼点は何かを考えてみます。生活感のない人形的な存在が当時のアイドル像だったのに対して、予定調和でなく「生活感のある女子高生たち」という、象徴的にはテストがあるから休むということだったんですね。僕は全くおニャン子クラブは分からないですが、この予定調和を裏切るという経験や感覚が生かされたといっていいでしょう。

3つ目の記憶:出待ちの人々の観察

 アイドルというのは、「追っかけ」と呼ばれる人たちがいて、アイドルがテレビ局にいれば、入り待ち、出待ちして、レコーディング・スタジオに行ったりして、ずっと追いかけている。でも、ちゃんとした形で会えるのはコンサートのときだけだ。

  「だったら、同じ場所でずっとコンサートをやっていれば、いつでも会いに行けるじゃないか」

 そんな発想が企画につながったのである。

 それは、やはり僕の中で「おニャン子クラブ」の経験とか、バラエティーをつくったり、歌番組をつくっているときの経験とか、いろいろなものが「記憶」されているからなのだ。

  つまり、発想や企画のヒントは、日常の中に転がっていて、それを「記憶」するところからはじまる。

同上、位置54付近

アイドルの出待ちの人たちに対して、アイドルを追っかける。でもちゃんと出会えるのはコンサートだけ。1つ目の記憶と重ねると、その場所に行くという人は少数でも確実にいるし、追っかける人はおっかける。ならば定点があればそこにいつでも会いに行けるというのは、まさに組み合わせであり、結合といっていいでしょう。

やや脱線しますが、著者の発想法とは、日常にヒントがあり、それらを記憶するということとなるのですが、全く同感です。結局自分で使える何かに転じるということで、著者は象徴的に「メモを取らない」といってます。僕は取りますが(笑)そもそも、使える情報なら覚えているというフィルタリングはありだなあと。これはもう個性ややり方なので正解はないでしょう。

4つ目の記憶:劇団の成長を見られるのが好き

これは企画脳でなく、日経BPのインタビュー記事になります。

僕は学生時代から劇団が好きで、彼らが小さな劇場から徐々に大劇場に移るのを見て、「ああ、成長が目に見えるっていいな」と思っていました。最初は同じように劇団を作ろうと思い原宿や青山を探したのですが、なかなかいい場所が見つかりませんでした。たまたま秋葉原にいい所があったので、秋葉原なら劇団よりアイドルのほうが面白いと思い、2005年にAKB48のプロジェクトを始めました。

秋元康氏、革新を起こし続けてきた男の頭の中より引用、太字は筆者注

上記インタビューは面白いのですが、上のようにそもそも劇団を見るのが好きで、芝居ですよね、それでどんどん劇団が成長して芝居するのが大きい劇場に移っていく体験があるんですね。成長が可視化されることが良いと思っているわけです。ここでは「記憶」とないですが、企画脳的にいえば全く「記憶」といってもいいでしょう。

さらに秋葉原はたまたまにいい場所があったことと、劇団ならありそうだけどアイドルってなかなかない(2005年時点ということに注目です)というところも大事ですね。

5つ目の記憶:ライブは生き残るという思いから

上に続く部分でややかぶりますが、

 このときもマーケットのニーズなどは考えていなくて、色んな人に反対されました。でも、「毎日劇場で公演をし、成長の過程が見えるアイドルって面白そう」と僕は単純に思っていたんです。このころちょうど違法ダウンロードや不正コピーも出始めていて、これから生き残るのはやっぱりライブだなという思いもありました。

秋元康氏、革新を起こし続けてきた男の頭の中より引用

マーケットニーズを考えないとは企画脳でも書かれています。リサーチしてどうとかではないんですね。また放送作家の話として、大衆が望んでいるのはこれだーみたいなのも上から目線ということで辞めて、自分も大衆の一人で自分が望むものを作るという話もあった気がします。

もちろんこれを素人が真似できわけではないです(笑)なぜなら、放送作家での企画経験から様々なヒット作があり、その中でそういっているのであって、何もないところからではないです。ただ本質的に企画としては、ニーズがどうというのをあてていくという感じはなくて、色々な「記憶」を集めて、材料としてどう調理するか、器が決まったらそれにどう盛り付けるかみたいな感覚だということが企画脳からは読み解けます。

成長が見えるっていうのが面白いというのもありますが、ニーズを考えているわけではないこと、ちょうどライブっていいよなというところもあったことも要素と言えます。

5つの「記憶」を転がしてAKBのコンセプトが生まれた

そうまとめてはないのですが、ここから上の5つのネタを転がしてアイデアが生成されたといっても、乱暴でもなく自然と言えそうです。

再度整理してみましょう。横に切り口を付けてみました。

1つ目の記憶:何かを目的にその場所に行くことがすごい(人の話への関心)
2つ目の記憶:おニャン子クラブでの経験(予定調和の裏切り)
3つ目の記憶:出待ちの人々の観察(普段の仕事での観察インプット)
4つ目の記憶:劇団の成長を見られるのが好き(そもそも好きなこと、一次体験)
5つ目の記憶:ライブは生き残るという思いから(時代の流れや確信)

これも後付けです。とはいえ、著者的にはそういうアイデアを転がして生まれたというのは確実といっていいわけです。間違えていけないのは、この5つの切り口があればすごいアイデアが出るというわけでもなく、たまたまここでは5つで、たまたま切り口としてはこういえると僕が言っているだけです。

切り口は多いほうがいいですが、著者的には「記憶」をしているのでこれらが脳内で混ざって出てきたと言えるでしょう。

当初の僕の違和感としてあったものはここで解消されました。つまり、会いに行けないことが不満は上でいえば3つ目の出待ちなどの観察とは似ていますし、テレビ番組関する仕事をしている人なら「わりと知っている」か、そもそも追っかけをするとか、それを知っている人なら「当たり前」のことでしょう。

しかし、1つ目の定点の価値、2つ目のそもそも企画として仕掛けた予定調和のうらぎりという切り口、4つ目の企画人自体が好きなことという一次体験、5つ目の時代の流れやライブという体験の価値という意味合いがあるからこそ、つまり総和であり組み合わせであるので、3つ目だけの観察から引っ張ってきたというのは乱暴と感じたというところです。

実際に分かりやすく取り上げるという意味ではアグリーですが、分かりやすさは色々と見落としたりします(切り捨ててしまう)ので、要注意という感覚を覚えました。

一方で、秋元氏のやり方も様々なヒットを生んでいるわけですが、そのやり方も王道といっていいでしょう。秋元康になりたいという人がいるかはおいておいて、企画発想として特殊なこと、奇抜なことをやるのは間違っている(個別の企画で新規性を出す意味ではありですが、それ以上にはならない)とも言えるかもしれません。

地味ですが、インプット、考える、アウトプットの繰り返しです。秋元氏はそれを違和感でもいいし、印象に残ったこと、勉強になったこと、色々な人との会話、仕事というところから引っ張ってくるということをしていると言っていいでしょう。

秋元康氏の発想法から学べること

もはや説明をしてしまいましたが、今回のAKB48のような企画であれば、秋元氏の企画方法を学べばいいということになります。もちろん、それは様々なことをインプットして記憶して、色々と組み合わせて出すということです。抽象的でもなくこれが本質となります。

当然、会いに行けるコンセプトは二番煎じですし、仮にやってもオリジナルを超えるものでないときついでしょう。コンセプトありきというかいきなり生まれるわけではないので、それにたどり着く=アイデアが生まれるためには、夢も何もないですけど日常を観察し、インプットし、仕事し、見つけ感じていくこと、そういうことしかいえないんですね(笑)それをいきなり「夢のあるコンセプト」が生まれてくるとかはちょっときついわけですし、無理でしょう。

しかも、裏をかけばうまくいくわけでもないです。例えば、アイドル=可愛いから、そうでないみたいなことを今仕掛けられるかとか、そもそも芸能の感覚もSNSやネットがある時点で大分違ってきます。夜だけしか活動しないアイドルみたいな時間帯を工夫するのもありかもしれませんが、それって「付け刃」的で、なんともですよね(笑)そういうのではないんですね。

僕の感覚では、上の5つの記憶の粒度、体験の濃さはバラバラであるというのがポイントだと思っています。一次体験でしか駄目とかでなく、人の話もあるし、観察もあるし、なんとなく良いというのもあるというのがポイントです。バラバラであるが、まとめていくと「使えそう」というのも大事ですよね。

あとは、マーケットニーズみたいなものではないというのは、僕はやはり調べたほうがいいと思っているので、真似はしないというところです。調べるとは、例えば広告付き傘はいける企画だとしましょう。かなり危険ですが、ほとんど調べず、駅前で傘を貸してお金を得るとしましょう。気持ち悪いですがIoTとかついていて傘を広げたりが分かったりする仕掛けとして、広告費を企業からもらいます。実現性は困難ですが、それをあえてやるとしましょう。

でもこれってそもそも傘がそれだけ使われるか、傘の管理はどうするか、そもそも広告入り傘を使う状況ってなんだ?となって、わりときつい気がします。そういう意味でアイカサというサービスがありますけど、あれはすごいなと感じます。同じようなアイデアを考える人は色々いるが実行にいかない人が多いからですね。僕もそうです(笑)

この時ニーズ調査はしたほうがいいし、MVPなり、プロトタイプを作って試すほうがまあいいですよねという感じがします。いきなり場所を借りて店舗とか怖くて出来ないだけなので、人によって印象は変わるのですが、僕は調べることが不足しているだけというケースの方が多い気がするので調べるはより大事だと考えています。

一方で、企画はネタを見つけてインプットしてそれを組み合わせていくということは、全く同感でした。これはどんな企画でもそうだと思うので、そこを再確認できるだけでも重要だと思います。

少し書きましたが、カルピスの原液をつくれという話、予定調和を壊すはとても好きです。前者はアウトプットの形式だけをみるのでなく、本質的な再生産できる仕掛けとしてのアイデアが大事という理解です。後者も奇抜というのでなく、世の中の当たり前や通常こうなるということを想定してその裏や違う視点で見るということを言っていると理解しています。

おわりに

今回は企画の出し方ネタ帳というところでは初のエントリーでした。

AKBネタというのは自分でも意外だったのですが、企画脳も読んだことがありますし、企画マンの考える考え方ということで学びやすいネタであり、AKBという知名度からとっつきやすいと感じた方が多ければ幸いです。とはいえ、ネタ元は違和感なんですけどね(笑)

AKBがどう生まれたかとか、秋元康氏の発想法を知りたいとか、そういう人のヒントになれば幸いです。

リクエスト募集しています。もしあなたが興味を持っている企画やサービスはどう生まれたかなど気になるものがあれば調べてアウトプットするのでお気軽に教えてもらえれば嬉しいです。全部やれるとは限らないですが、読者のために身を粉にしていきたいと思っています(笑)

筆者プロフィール

シゴトクリエイター 大橋 弘宜
シゴトクリエイター 大橋 弘宜
「シゴクリ」運営者。アイデアの力でお客様に貢献するゼロイチ大好きアイデアマン。ビジネスアイデア相談実績等は200超を超える。好きな言葉は三方良し。詳しい自己紹介仕事実績も合わせてご覧ください。お仕事メニューお問い合わせはお気軽にどうぞ。

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