価値を創造する会計という本がすこぶる面白い
何気なく読んでみたんですが、色々と裏切られて面白かったです。裏切られたとは、期待値を大きく上回ったという意味です。
早速どこが面白かったか書いてみます。
目次
本書は「会計」本ではない
まず本書は会計本ではないです。例えば決算書の読み方とか、投資に役立つノウハウとか(笑)そういうのではないと。それを期待するとまずいので、そこはちゃんと検討してから読みましょう。
では何が書かれているかというと、会計をツールや道具として、もちろん単なる道具ではないけれど、あくまでビジネスや経営やその事業においてわりと高めの視座・視点・視野で考えるという「本源的価値」というのを考える本です。
という意味では論文や研究的な事例があるわけではないけれど、著者の哲学がしっかりと書かれていた良書だと思いました。
当然本源的価値=会計的思考です。会計的=数字や決算書を読むことは「重なる」のですが、そこから読み解くのは、どうビジネスや経営を運営したり、当然ですが価値を創造して顧客に届けること、社会に届けることという視点になってきます。
会計本を期待されると裏切られる
僕も会計本なのかな?でも「創造」ってどういうことだろうというところで読んでいきました。前半は一応決算書や基本の読み方も解説してくれます。ただそれは「そういう風になっているだけ」で、別に詳しく読めるとかはいらない。むしろ読めることに意識すると、本源的価値ではないとすらする印象もあります。
例えば会計士にも色々な人がいますが、本源的価値を読めるかはわからないわけです。だからこそ、会計のプロでさえもその意識があるかは分からない。が、著者は会計のプロというところで同時に本源的価値=価値を創造し生み出すこと、自体は会計上は表せられないとすら言っています。
確かに、車でもWebでも作ったものが100万円で売れるとすると、その原価はあるとしても売価ー原価=価値となります。原価と書くと怒られる感じもしますが、原価+経費でもいいですし、そこは重要ではなく。つまり、その差分が価値とすると、その価値をどう生み出すかって、まあ人ですし、組織ですし、仕事じゃないですかと。
そういう話が後半は展開されてきます。
そういう意味で裏切られたわけですが、愛とか感謝とかが出てくると苦手な人もいるとは思いますが、僕は本質的な話だなと、下手すると自己啓発になりますが、あくまで著者はそこを会計という入り口、ツールや道具で、現場の経験からもそこにたどり着いた(むしろ著者の経験では、会計や数字でロジカルに出したものを作っていってそれで仕事を成立させようとしていたはずで、でもそれだけでは人は動かない、決算書は感情ではないですし、現場の熱や人のぬくもりはないわけです。ロジカルが悪いわけではなく人が動くのは情熱だったりするのかなという憶測です)のだろうというところが最も面白いところです。
この流れは、鎌倉投信の本だと思いますが、持続可能な資本主義とかもそんな感じですね。ゴリゴリ証券会社やトレーダーとか金融業界にいた人が「ん?これなんか違ってない?」みたいな切り口ですね。現場にいなきゃいけないとは言わないですが、説得力がプラスに補正される感じといえば伝わりますかね。とはいえ、本質的にこういう話になっていくと思います。
面白かった点
3つほどハイライトしたので取り上げてみます。
枝葉のビジネスでなく本質的な根っこを見るとアイデアが広がる
たとえばタクシーの運転手というビジネスがあります。タクシーの運転手自体は、すでにある誰でも知っているビジネスです。
しかしタクシーの運転手というビジネスを、お客様の貴重な時間と空間をいかに快適に保って目的地までお運びするかを追求するビジネスと定義すれば、いくらでも改善の余地が出てきます。それらを徹底的に突き詰めれば、誰にも負けない独自の本源的価値を生み出すことができます。
これはすべてのビジネスにおいていえることです。 誰もやったことのないビジネスを探すよりも、経営者がとことん惚れ込める分野において、誰にも負けないほどお客様の幸せを考え追求することで独自の本源的価値が生まれる(略)
価値を創造する会計 Kindle版、位置No. 1247
このあたりから著者が言わんとすることは伝わる気がします。ここではタクシービジネスですが、タクシー会社が色々あれど何か違いがあるのはなぜかという切り口になりますよね。
地域の足としたいならコミュニティタクシーをやると。でもそれは利益になりづらいなら別のビジネスや視点で回せないかを考える。これって「地域の足」というコンセプトがないなら、つまり「人を運ぶだけ」なら、なかなか生まれづらいはずです。もっといえば「人を運ばない」けど、地域の足となると、そうです。物流的なことも営業許可とか色々ありますけど、やろうというアイデアも生まれるわけです。
ここではコンセプトレベルの話になりますが、結局枝葉で捉えるとアイデアは小さく細ったものとなり、なかなか視点が切り替わらないわけですね。しかし、本源的な本質的なところへいくと、どんどんアイデアは出てくる。ここはめちゃくちゃ大事なことですが、枝葉でのアイデアで慣れると何か違うぞと思ってもそこにハマってしまうこともありがちです。
お客様の幸せというのも本書のキーワードかもしれません。つまり、会計で決算書をきれいに作って間違いないものとする。もちろんそうなのですが、なんでビジネスするか、事業するか、どうしてやるか。そこがふわっとしているのに、やはり成長なり満足って出来ないんですね。仮に仮初め的に最初はふわっとでもいいけど持続性はそれでは生まれづらい。だからこそ、そこを詰めて行く。そうすると、本質的なものになるというのが僕の解釈です。
この下りがいいなあと思ったのは、これってめちゃくちゃありふれているわけですよ。コーヒーショップでもいいし、スーパーでもいいし、クリニーング屋さんでもいいし、本屋でもいいし、なんでもいい。色々な仕事、ビジネスが山程あるじゃないですか、目の前や街に。ネットもですけど。それぞれのコンセプトってなんだろうって考えるだけで勉強になるし、その違いが何かだけでも面白いなと。
儲かりそうでやると持続しない
起業家の方に多くみられるのが、儲かりそうかという視点でビジネスをはじめるケースです。
起業したいのだが何か儲かるビジネスはないか、という相談をされる方が多くいらっしゃいますが、そのような動機で起業した方が成功する例はほとんどありません。なぜなら、儲かりそうかという視点でビジネスをはじめると、儲からなそうと思ったときにすぐにあきらめてしまうからです。
ビジネスで成功する方法は、実は簡単です。成功するまで続ければいいのです。もちろん、ただ闇雲に同じ方法に執着していれば成功するというわけではありません。あきらめないことと執着することは違います。執着すれば全体がみえなくなってしまいます。全体を捉える視点を保ちながら、あきらめずに続けていくことが大切なのです。
そのプロセスにおいては、前述したように仮説をたて、失敗し、それを検証することが不可欠です。そのサイクルを続けていくことが大切です。
あきらめるから失敗になるのであって、あきらめなければそれは失敗にはなりません。一時的にうまくいかないことがあっても、それは単に、うまくいかない方法を確認し選択肢から消していく作業に過ぎません。つまり、うまくいかないたびごとに成功確率が高まっているのです。ほとんどの人たちが、成功まであと一歩というところで、うまくいかないことに嫌気がさしてあきらめてしまっています。(略)
価値を創造する会計 Kindle版、位置No. 1770
儲かりそうだから起業するというと如何にも正しい気がしますが、確かにそれがあってもいいのですが、それだけでやるのは動機としては弱いというか十分ではないって話です。そしてほぼ失敗すると。実際には多くが失敗するのでお金を得たいだけなら、普通に勤めて仕事をするほうが安定するし、確実ともいえる。リスク・リターンが合ってないという感じもします。
そして理屈として、僕もそのとおりと思うのですが、儲からないなと思えば辞めるんですね。これを投資などで「損切」として理解する人がいそうですが、この場合損切の正しい理解は、「損」を辞めることで、母体や土台を守ることで、持続性つまり次に繋げるためにってことですね。そこで投資を辞めるなら「損切」でなく、「投資中断」「投資終了」ということで、投資活動自体を辞めることだと思います。ですが、損切とはそうでなく、そこでは「負け」かもしれないが、そこで下がる。次を狙うという意図がありますよね。
ここでの起業での儲からないから辞めるはこういった損切ではないわけです。つまり、「儲からないから」辞める。そして次の持続性はなくて、そこでやったことはわりと得られることがないというか、得ていない。得るとはお金でなく経験や学びってことです。だから、次をやるにしても「また0からやり直し」と思うはずなんです。持続性という視線や姿勢がないからですね。だから、これは損切でなく、「お金を得たくてやったが得られないからやめた」ということだけを純粋に繰り返すわけです。
当然これを繰り返してさすがに凝りて違うやり方をというのはありますが、そこまで粘れるか、学べるかというところがあります。人によるので、それが早く気付けるかどうかはあるのかなというところですよね。
僕が好きな言葉に失敗は成功へのフィードバックというのがあります。ある人が使っていた言葉で、上手い言葉だなと思って使っています。実際に著者もそのとおりのことを上で言ってますよね。諦めなければ成功する。もちろん執着してしまって見えないなら駄目。だからこそ、何度も繰り返していく、そして明らめるのでなく、続けていく。
まさに僕はここにビジネスの面白さを見出しています。それはある種人の成長、ペットみたいなものでもいいですし、ある種の我が子みたいなものでもいいし、愛する人でもいいし、なんでもいいのですが、そういうそういうことを丁寧にやって育てたいなというところがとても近い。だからこそ、持続性というところはかなり長期で考えていいのではないかとすら思います。
例えば10年以上のロングスパンで考える方がいいのかなと。それで飽きるとか飽きないはあれど、コンセプトとか本源的価値みたいなものはそれくらいの年数ではぶれないはずです。当然小さい失敗、止まったり再起動とかあっても、結構一生やれるくらいのものは「これだ」みたいな一発でなくじわじわと固めていくものでぶれない感じが強いですね。
僕のところへ相談しに来る人は色々調べられるかもしれませんが、そういう一発で儲かる!とか、儲けたいです!という人は合わないので、そういう人を好む人もいるかもしれませんが、山っ気がありすぎて辛いのでお断りというところです。実際には僕が価値を提供出来ないのと、合わないだけで、あまり深い意味はないです。ただ僕は嫌だなというだけです(笑)他にそういう人がいるはずなのでそっちでどうぞとなりますよね。
そして、起業のパラドックスとも言えますが、じゃあ別にお金を稼げなくていいとか、売上は要らないとかってことではない。それは極端なわけですね。そこまで僕は言ってないし、そういうことでもない。魔法でもなく、それらは試行錯誤と学習を得ていくと多分おおよそ出来るという見立てが大事です。妄想をそのままやれとかでもない。ただ案外うまくいくこともあるし、そうでないこともある。ってことは常に0%より上で、100%未満の世界でそこはあると。そう考えると結構楽しくないですか?絶対駄目なものはないんですよ。もちろん絶対うまくいくこともない。
そういうふわっとした曖昧なところが僕は最も好きで、たまたま僕はそれをビジネスにアイデアに見出したといって良さそうです。それが僕の本源的価値、というかビジネスをやりたい、楽しいなとか面白いなとか思えることに近いです。当然それによって人が喜んでもらえるからやるというわけですね。
ビジネスは受け入れること
愛とは受け容れることです。
人間は決して完全ではありません。誰でも欠点はありますし、過ちを犯すこともあります。
本書でも、ビジネスを成功させるために大切な考え方として、かなり難易度の高いことを書いてきました。これらをすべて兼ね備えていれば素晴らしいですが、現実には私自身も含めて完全に条件を満たすことなど誰にもできません。
高い志や自立した心、機会思考なども、常に維持し続けることはできません。志を見失うこともあれば、他人や環境に責任を転嫁したくなることもあれば、チャンスと思うことができないほど落ち込むこともあります。
常に完全でなければと考えると、自分の弱さに直面したときに自分が嫌になってしまいます。自分が嫌になると他人にも優しくできなくなり、完全でない他人に対しても蔑視や怒りの感情がわいてしまいます。そうなってしまっては本末転倒です。
無理に100%を求める必要はなく、不完全な部分、弱い部分も含めて、自分も他人も受け容れることが大切(略)
価値を創造する会計 Kindle版、位置No. 1934
このあたりは本書らしいわけですが、同時に会計本というものではないのが明らかですね(笑)そこが面白いわけですが。
ここではうまくいく、完全な人間なんていないですから、じゃあうまくいかないぞとか、全然駄目だぞとなって自己嫌悪しがちだと。でもそうではなく、そういうところを愛おしむというか、まさに「愛する」ってことですが、受け入れることだと著者はいいます。
僕の言葉でいえば、「そういうこともある」ですし、そうやってブレるのが人間とも思っています。まっすぐで失敗しない完壁なイメージは作れますけど、そんな人はいないですからね。仮にいても友達になりたくないですよね(笑)僕も不完全な人間ですし、そういうことを認めていくとぐっと楽になると思うんですね。別に楽して生きたいというか、そこに嫌悪したり、駄目だ駄目だなんて言っているのは精神衛生的にどうかって話です。
むしろそこで嫌悪するとか、駄目だ駄目だなんてことでなく、リソースとしては、どうすると実現していって喜ばれるのかというところに集中する方かなと思います。それに向かっていれば自己嫌悪なんてかなりどうでもいい話ですから。むしろ自己に向かっている時点で(向かったら駄目ではなく、そうなるものなので、それを受け入れるって意味です)方向が違っているわけですからね。そこは冷静に見ると「受け入れられる」かなという感じがします。
創造することが面白い
本書は会計という切り口に思考として会計的思考ですよね、それは本源的価値というものにつながるし、それがあってこそのビジネスだと。しかももっと詰めるとそういうビジネスの動機もアウトプットも結局は愛となり、人間学みたいな哲学みたいな話になるということでした。
これは確かに本当そのとおりで、企業は人なり、という格言めいたものも、その企業をどうするか、どうしていきたいかで如何にトップが何か言っても無力であることを感じればすぐ分かります。トップでなくてもいいし、人が動かないことを見れば役立たないからですね。つまり、人がどう動かせるかを賢明に考えること、それって人の心理もですが、哲学や共感、感情的で、ロジカルでなくパッションなんですよね。別に体育会系的にやれってことでなくて(笑)
そこを踏まえると、やはり会計的な数字では創造価値を表せられないというのはとても印象的でそのとおりだと感じました。
僕の書いているものでもアイデアでもなんでもいいのですが、会計的な数値で現すことはできても、なぜ価値が生まれたか、創造はどこから来たかなんて見えないですから。まさに見えないものの価値というところで本質的な話だったなと感じます。
というわけで、会計とかそこまでだなーという人もビジネスを本質的に見たいとか、そういう思考をちょっと見てみたい人にはかなりおすすめです。本ブログの読者なら十分味わえるかと(笑)
筆者プロフィール
- 「シゴクリ」運営者。アイデアの力でお客様に貢献するゼロイチ大好きアイデアマン。ビジネスアイデア相談実績等は200超を超える。好きな言葉は三方良し。詳しい自己紹介、仕事実績も合わせてご覧ください。お仕事メニューやお問い合わせはお気軽にどうぞ。
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