鈴木敏文のCX入門が面白かった

セブンイレブンで有名な鈴木さんですが、ほとんど本は読んだことがないというか記憶がなかったです。今回CXというところもですが、どういう視点かというところも気になり手に取ってみました。

結論的にはかなり面白くて、顧客体験としてCXを考える人でこれらのこと、書かれていることを考えようとしなければ、やはりビジネスや商売はきついんじゃないかと感じました。逆にやっているところがあればそれなりにうまくいっているのではないかなと。

現金下取りセールと2割引セールの違い

P.42に書かれていた話です。

現金下取りとは、ここではイトーヨーカドーですかね、スーパーでの服売り場での話と想定されます。そこで、施策として、鈴木さんが考えたのは、「5000円以上服を買ってくれたら、服を下取りしますと。現金1000円で」という施策だったんですね。

一方で、2割引セールとは、5000円のものを2割引すると1000円引きですと。

本質的に「価格」だけ見ると、どちらの施策も一緒です。ここでポイントは顧客、つまり服を買ったり下取りする人たち、生活者・消費者ですよね、あなたの立場といってもいいですが、考えてみてください。違いは分かりますか?

正解でもなんでもなく、本質的というのは「価格」だけではないわけです。つまり、人の行動、購買、買い方なんて色々ある。人に勧められたから、良さそうだから、たまたま行ったから、様々ですよね。そういう心理が働くわけです。ここでは下取りセールこそが心理を突いたというわけです。一応念のためにいえば、現金下取りをすれば絶対うまくいくなんて小手先の話ではないです。そういう意図ではなく、顧客の立場を考えるとこうなるという例、でしかないわけです。

まず、2割引側の主張です。これはまず合理的な経済人、つまり経済学者みたいな合理的行動をする人が想定されています。つまり「現金下取りでー」といっても、消費者は「それは、実質2割引でしょ。2割引でいいや」と考えるので、「下取り?服持ってくの面倒」となって、余計な負担が増すと考えるわけです。合理的ですよね(笑)ですが、僕もそうですが、合理的ばかりに考えていることは少なくて、絶対品揃えではAmazonには勝てないけど、ここで出会った本だから買うということは普通にあると。服もそうでしょう。ここで出会ったから買わないと、というかどこで他で買えるんだろうとかもそうです。

つまり、人はめちゃくちゃ合理的ではない、曖昧なんですね。ただその考え方が絶対的に抜けているわけではないんですよ。合理的に考える人がそう言っているだけで、単に顧客の立場から考えてないだけで、その人は買い手でもあるので、想像できないわけではないが、そういう行動や考え方を持って仕事をしていないってことなんですよね。過去の成功体験もそうでしょうが、多くは顧客自体の考えが変わっていることに気づけない方かなと思われます。

次に現金下取り的な心理について考えてみます。これは一見すると手間ですよね?ですが、鈴木さん的に考えていることをいえば、まず服って買いたくてもタンスや押入れとか色々なところに既にありますよね。服が全くないことは珍しい。そして服があるのでもうこれ以上買えない。じゃあタンスのものを出してスペースを空けると、新たに買えますよね?ということで、あくまで見たのは「生活者の服に対する感覚」です。「これ以上買っても入らないなら買わない」ことを知っているのでそこを突いたといえます。

さらに普通に服を捨てるのは確かに可燃ごみもいけるのですが、リサイクルなどを考えるとまあ罪悪感があると。僕は多少ありますが、量もですよね・・・。下着はともかく、量が多かったりそこまで傷んでないならリサイクル出来るのではないかと。それは専門の場所や引取が必要になってまあ「面倒」なわけです。ですが、ついでに引き取ってくれるならもうそれに乗っかるよと。罪悪感ってかなり人間っぽいと思いますがそういう回避の心理も動いていると。これは大きいですよね。

だからこそ、価格面だけ見れば一緒なんですね。しかし、心理面では全く違う。簡単にいえば、2割引セールはただ価格の訴求でしかないと。そこに当然「タンスの不要なものを出して」と書けばいいのかもしれないが、そこが面倒だから動かないと。人の心理を読むというと未来予測みたいな考えの人もいますが、あくまで自分ならどうだろうか、そしてそういう人ならどうだろうか。共通するのは自分と同じ人であることということですよね。

そして結果は現金下取りは活況で他の店も追随するようになったと。確かに印象が良いしそこで買うきっかけも作れると。ただこれをどこでもやるようになると効果は薄れるとかはありそうですよね。とはいえ、ここでの本質はこの施策が同じかどうかってことです。

これを同じであると考える人は、CXとか顧客の感覚や立場について鈍感と言わざるをえないかなと感じました。もちろんこのケースだけで判断はできないものの、何が違うのか?で本当にカスリもしないのであれば、買い手の立場が喪失しているわけです。買い手の立場を理解しない人から買いたいですか?それはないというだけですよね。

あとは、この視点をテストに使うかはおいておいて、こういった視点で考えられるかはかなり面白いと。合理的ではない、経済学的な考えだけではないということですが、もっと曖昧で心理や環境に依存するのが人間という感覚でいれば、ものすごく当たり前のことなんですよ。でもこれを頭で分かるのでなく、施策レベルでやっていけるかってことになります。

関連する話は、P.45あたりのストアイノベーションプロジェクトというのもそうです。これは既存の社員、役員等の視察禁止というお達しが出たようで、それくらい口を出したい、それではダメだという人がいそうだ、またはいたのでしょう。セブン‐イレブン [ ストア ・ イノベーションプロジェクト ]

セブンイレブンを一つの企業として見て良いイメージがあるかもしれませんが、とはいえ合理的に考える人もかなりいてそれが絶対ダメとは思いません。ただ、鈴木さんがいう様に顧客は変化しているし、社会も変化しているところで、そういう人たちがどう変わっていくか、どう考えているかを知らない、想像しないのでは、確かに現金下取りセールみたいな施策は出て来ないんですよね。このあたりは他にもなるほどなというのが多いので大いに参考になる本かなと。

売り手になると買い手の立場が消失する

これはこちらに追加で書いたので参考にしてみてください。ビジネスから顧客が消える瞬間なんて一杯ある

上で書いてないのは、多分ですが、フランフランに便座カバーがない話とかですかね。つまり、顧客のためにという視点=点的=短期的なんですね。顧客のためにってここでの使われ方ということでです。

一方、顧客の立場でとは、線的・面的=中長期的であるといえると。

フランフランであれば、若い女性向けの雑貨などですがそれらの世界観は明確で日常に使えるけど面白かったり、楽しいとかかわいいとかってものですよね。一人で私が入るのは結構抵抗があるピンク感がありますし、アロマとか色々な香りがしていると。これらで男性は弾かれるとも言えます(笑)そしてそういうワクワクや面白いみたいな世界観を売るからこそ売れるといえるので、それらが中長期的という世界観です。だから、便座カバーは確かに置けば売れるのですが、それって別にフランフランではなくてもいいよね、という世界観と不一致だから置かない。それだけなんですが、買い手や世界が見えてないと、平気で便座カバーを置くと。そういう違いなんですよね。ここの違いが見えるかどうか、顧客のために便座カバーを置くのか、顧客の立場で便座カバーは絶対置かないか、二択ではないんですけど、ここでは分かりやすい例になるかと。

他にも鈴木さんは、トーハンで本社管理部とかの仕事をしていたっぽくて、そこで新刊ニュースという全然無料なんだけど読まれてないものがあったと。いわゆる新刊目録みたいなもので、書店のレジ前とかに色々ありますよね。あれは確かになかなか手にとって読まないですが、ああいったものを、改良して、今の若手作家とか著名な人の話を入れて読み物としていった。これも顧客=本屋に来る人の立場を見て、新刊目録って便利だけど、それでは味気ないみたいな感覚で見たからなんですね。これは有料配布でしかも20円だけど、部数が20倍になったそうです。

これも一例に過ぎないのですが、鈴木さんの施策とは、業界知識があるとかよりも、むしろなくても他の抽象化した観察と原理からいけるのではないか?という仮説があるんですね。それを何度も実施しているのが面白いと感じたところです。

例えば上の話で、セブンイレブン自体もノウハウを買ってアメリカから色々マネできそうだと思ったらそんなのマニュアルしかなくて全然使えなかった話などが顕著です。そこからセブンイレブンを作ったんですよね。それも社員含めて鈴木さんも全くの小売は素人なんですよ。イトーヨーカドーでいたとはいえ、それは多分本社管理的なもので、販売経験もないし、商品開発をしていた人でもないって書かれていてなるほどなと思いました。

つまり、確かに業界の知識や経験は全然良いんですよね。ただフレームとかバイアスとかで固定的に考えすぎるならそれはむしろ微妙だと。であれば、客の立場が分かる点を起点にするのがいいと。これがまさにCX思考と言えるのかなと感じます。

仮説力の鍛え方の話

本書で仮説をどう出していくか、その鍛え方が面白かったです。アイデアの出し方とも非常にリンクしそうなので取り上げてみます。

本書では、ざっと5つ、正確なところは本書でどうぞというところですが、挙げています。僕なりに言えば以下になります。

  • 疑問を常に思うことで鍛える
  • フックとして情報を引っ掛けて得る。興味が大事
  • ミクロとマクロの両方から考える。ミクロはフックするものが大きい
  • 主客、客体の統一で考える。要するに買い手と売り手。
  • 素人視点は客視点の参考になる

というところです。

疑問を常に思うとか、フックをかけるとかは割りと分かるのかなと。ミクロはフックからあるので、例えば金の食パンのネタがありましたが、これも他業界ではガンガン売れているのを見過ごすことはない。コンビニでもできるっしょというところだったようです。これも鈴木さんの意識としてフックですが、それがないと引っかからないと。だから、当然興味を持ったことしかフックにはかからないんですよね。

だからこそ、フックをかけるって興味を色々持つしかなくて、全部に興味なんてもてないので文字通り心から面白いなとか、なんだろって思うことがポイントになるかなと感じました。当然色々気になれば面白いし、豊かですし、そこから考えられることが多くなっていくわけです。

僕ならアイデアに関することはフックが自動的にかかるのと、データの取扱とかリサーチもそうです。ビジネスの立ち上げとかも形にするというところもとても興味があるので、自動的になんだろ?って思ったりします。

同時にマクロは、もっと大きな流れです。これは多くは似てくるものですから、例えば少子化とか、IT業界が伸びるとか、モノの買い方体験が色々出てきているとか、メタバースみたいトレンドでもいいですしね。そういうのも興味がないと全体の大きな流れって見なくないですか?マクロの興味というと分かりづらいですが、食パン気になって調べるのもいいし、そういえばパンって今どうなのかとか、または他の加工食品がどうとか、海外はどうだろとか、若い世代はどうかなとか。無限に広がりますから。

主客一体はやや分かりづらかったのですが、要するに自分が何者かというと、買い手でもあり売り手ですから。ただ、面白かったのは主体として売る側があってはいけないというのは、らしいなと感じました。ここで「え、売る側が主体ではないの?」って思うかもしれないのですが、主体ってぶっちゃけ確かに誰が販売責任があるとか、そういうのは要りますよね。ただ、それって信頼とかブランドとかの話が蓄積されるものであって、私が売りたいのだ、私が作ったのだって主張は邪魔ではないですか?こだわりがあっても、それを「あなたが」作ったはどうでもいいと。どうでもいいというと怒られるかもですが、「あなたが」こだわるのはいいけど、それが「客」として「買い手」が「いいね」「楽しいね」「便利だね」「美味しいね」とかという話がメインのはずです。

そういう意味で、主体は売り手ではなく、主体は買い手なんですね。これも言い過ぎではないかなと。実際にターゲットをミスれば痛いですけど、買い手のそのままの真実だなと。ここでビジネス側、売り手側のエゴというものがあるから、それを完全消失するというよりも、まず顧客の立場で考える、そしてそれを売る。そこに主体ってなんだろうってことですよね。誰が売るという「誰=自分」というのは顧客に集中すれば確かに消失する気がしていて、お客さんのために(ここでは文字通り)考えることってそのままプラスになりますからね。

素人視点も面白いです。結局素人がやると失敗するって批判されますが、それって顧客の立場としては秀逸なんですよ。その後に、ではそこからスタートしてどうしていくか、そして色々な施策や実行が出来るかです。それだけですから、素人視点だけあればなんてことではないと。仮説ということでは、なんでこうなってんだろう?はとても大事ですよね。

仮説自体の考え方と、アイデアの出し方はほぼほぼ一緒に見受けられました。むしろ、仮説がフックされて蓄積されたり、気づく観察があったり、というところが全てとすら感じました。リサーチとも一緒かなと。とても面白いところですよね。

絶対価値と相対価値の話

これも面白かったです。

絶対価値とは、顧客からみてどうかというシンプルなもの。相対とは、例えば競合とか他のものと比較したものといえると。

競合に勝つって別にいいんですよね。でも、価格競争でいえば、低価格になれば勝てるじゃないですか。競合には。でも、それでその先どうなるかというと、ブランドイメージが悪くなり、利益悪化となってまあ不毛なんですよ。

他の例でいえば、いわゆるコンプライアンス違反みたいな顧客の捏造みたいなものって何で起きるか?ですよね。これも簡単で、相対価値、その場で売上が上がればいいし、何をしてもいい。これって雰囲気もあるし、他が止めないのもあると。皆やってると。実際どうかはおいておいて。感、ってやつですよね。絶対的に、これは顧客から見たらダメでしょ、なら終わるはずなんですね。

この本では、チャーハンがパラパラでないからやり直しさせた話が上がってます。売り場から撤収して、パラパラになるやり方を再開発したと。なかなかエグいと思う人がいるかもですが、その蓄積ですからね。実際に担当者は、「そこそこ売れている」判断で、良いと思ったんですね。実際に売れていると。でも、それは鈴木視点では「パラパラでないものをこのコンビニは作るのだな」という悪いイメージが付くので意味がないと。そういう判断基準がまさに絶対ですよね。

競合からみれば売れているチャーハンを売っているとしてもそれは判断基準がずれているからで意味がないってわけですね。

ここで思ったのは、相対価値で動く人ってやはりブレがあるんですね。ここはこうしておけばいいとか、表面だけを見がちということですね。例えば行動経済学も本書では色々紹介されているのですが、それをやればいいと思ってしまうというか。短絡的過ぎですがそうやって読む人もいるのかなと。取り入れて実験してどうかって感じならいいのですが、それが絶対とかと思っちゃうと。相対価値なんだけど絶対というのは矛盾していなくて、自分の立場としてこうなればいいというのしか見てないってことですよね。自分の立場は考えるべきですが、それって範囲があるからここまで。とても「らしい」ですが、これも従業員に経営者視点を持てというのかどうか、って議論と重なります。

ケースとして、裁量やなにかがないなら酷かなと。一方で裁量あるならそれは成り立つかなと。好きでやっているとストレスが感知しにくいのでいけると。まあそれを悪用するのも論外ですけどね。

くどいですが、顧客であるお客さんですよねがどう思ったかが全てだなと。それはこちらが何を考えてどうかってことは関係ないんですよね。パラパラではないチャーハンがそこにあるだけだと。色々頑張っているから「パラパラではなくてもいいよ」ってまずないですよね。僕もそうかなと。同情と共感は違うし、やはりパラパラでないんだよねーで終わるというか。それだけです。

もちろんいわれのないことは抗うし、違うというわけですけど、顧客のことを考えるって、フリをすることもできますから、これは一生もののテーマでもあると。なぜなら自分でシゴトを作ればその価値判断や基準がそのまま乗ってくるからです。相対価値が絶対悪とは思わないのですが、あまり意味がないですからね。要するに他で受けているから自分のところでもやるとかもそうですが、それで売れても維持したいとか、自分の世界観や届けたいかってことでいえば、どうなのかと。まあほぼ興味なくて「お金のため」だけのパターンなのでそれだけではきついはずです。興味関心を侮ってはいけないってことですよね。

もっといえば、相対価値は近視眼的であり短期的、点的になりやすいわけです。絶対価値は中長期的、線的・面的であると。

でもですね、これは絶対でもないと。ある局面では点的で突破したりそれだけでいいこともあると。ここはバランスかなと思います。だからこそ、点的を持続は辛いでしょうし、面的で一気にはできないと思います。だから、どちらも大事なのですが、上のチャーハンケースでは、絶対価値でないといけないと。本書ではちゃんと、絶対価値がいきなりできるものではないので、最初のスタートとかエントリーとかでは世界観なんて出来ないってことは書かれていた気がします。それはそうですから、いきなり世界観を押し付ける(笑)のも難しいので、最初はマネでもいいんですよね。ですが、真似し続けるのはーまあつまらないですよねってことで。

総じて面白かったです。ここでいうCX、顧客体験価値って、マーケティングなりビジネスをする人なら至極当然ですが、とはいえ関わっているからといって身につけているかは別ですよね。気になった人はチェックしてみるといいかなと。

筆者プロフィール

シゴトクリエイター 大橋 弘宜
シゴトクリエイター 大橋 弘宜
「シゴクリ」運営者。アイデアの力でお客様に貢献するゼロイチ大好きアイデアマン。ビジネスアイデア相談実績等は200超を超える。好きな言葉は三方良し。詳しい自己紹介仕事実績も合わせてご覧ください。お仕事メニューお問い合わせはお気軽にどうぞ。

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