一万円選書のいわた書店さんの本を読んでみた

ネットで色々漁っていたことはあるんですが、本を出していたとは知らずでちょっと読んでみました。

一万円選書の取り組みは7年低空飛行

この一万円選書というアイデアは、岩田さんが高校の先輩(ラ・サール)に本屋が大変だというところを相談した時にヒントを得ています。それまでもきついけれどというところですが。

そこで、言われたのは一万円を渡されて、これで何か面白そうな本を選んでくれよ、というわけです。これが始まりです。

でもそれは一時的なものでした。その後は月に2、3人ペース。それでは全然話になりません。結論から言いますと、一万円選書はブレイクするまでに、この時から7年かかったのです。ちなみにブレイクまでの7年間で選書に応募してくださった方は 50 人ほどでした。

「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店」位置: 115より

2007年に始めたものの、2014年までのブレイクまでの人数はなんと50人です。つまり、年7人ほどだったということになります。月でいえば一人いるかいないかというペース感です。

これは衝撃的でした。それでもなお続けていた、というのは、ここで分かると思いますが、岩田さん自身がめちゃくちゃ本が好きなんですよね。本を読んで紹介したい、本の面白さを伝えたい。そういうところがあるから7年も続けてかつ、それでぶっちゃけこれは「ニーズないかな」と明らめる数字だと思います。でもそれでも続けた。

それって何か?もう熱量しかないなあというわけです。

一方で2014年でブレイクしてから、それがなければどうなっていたかはIFなのでおいておくとして、なんと2021年までの7年間で、1万人を超える利用者となっています。

前述したように、2007年からスタートした一万円選書は、2014年のブレイクまでに7年を要しました。その後もお陰様で多くの方に利用していただき、2021年までの受付総数は累計11470人となりました。  大変ありがたいんですが、困ってしまう事態も起きました。応募が多すぎるのです。嬉しい悲鳴とはまさにこのことですが、とてもじゃないけど一人では対応しきれません。

同書、位置: 416より

2014年のブレイク後にものすごい利用者があったことがわかります。1万人を7で割れば、年1500人とかですよね。以前の200倍以上です(笑)

これも月に直せば、100人とか150人とかそういうペース感です。でも、これを冷静に見ると、1日3人とかの選書、つまり10冊程度選ぶなら30冊毎日選ぶことになるわけですが、考えただけでも相当の負荷です。

ブレイクするまで続けられるかという問いは愚問ですが、とはいえやっているからこそ分かる世界、見える世界がある。少なくともここで好き、熱量は必須となるわけで、それが如実に分かるエピソードですよね。

なぜ続けられたのか?

本を読むと、岩田さんがめちゃくちゃ本が好きということが伝わってくるわけです。いくつか引っ張ってみます。

究極的な話になりますが、結局みんな本に何を求めているか? ということなんです。僕は思います。自分と同じものを求めているんだと。共感するために読んでいるといっても過言ではない。自分はすごくマイノリティな人間だと思っていたけど、本の中に自分と同じ考えを見つけた。するとすごく嬉しいわけですよ。一人じゃないんだ、とホッとする。本によって孤独感を緩和することができる

同書、位置: 259より

これは本に対して何を求めるか。お客さんですよね。自分はマイナーな人間だと思ったら、そうじゃないぞと。みんな同じように、自分も含めて、似たような考えがあるとほっとすると。そういう安心感、孤独感を本に求めているみたいな話ですよね。これは皆が絶対そうとは思わないですが、なるほどなと感じます。

一生会うことはないだろうけど、カルテの向こうにいる人を想像して、あれこれ悩んで選書して発送するんです。その後、お客さんから「すごく面白かった!」「これからの人生の指針になる一冊です!」なんて感想をいただけると、そりゃもう最高に嬉しいんです

同書、位置: 664より

ここに尽きますよね。つまり、カルテを書いてもらって本を選書すると。そういうときにめちゃくちゃ考えると。本書では確か7段階くらい楽しめる要素があるみたいなことが書かれていてなるほどなと。それもありつつ、選んで喜ばれるのが最高に楽しいと。そういうのが伝わってきます。

結局ここで選ぶことが面白い、選んで喜ばれることがさらに楽しい、そこで様々な人のカルテを見て人生を得る、楽しめる。ある種お客さんの数だけエピソードがあってそれを楽しめるというわけですよね。内容がハッピーとか常にポジティブとは思わないですが、それも含めて楽しいと。

仕事でなくてもいいのですが、ここが言えるかどうかなんじゃないかと。自分はこれが面白いから続けられると。だからブレイクしてからはより磨きがかかってシステム化、分業化、仕組み化とかは当然していて、量もコントロールして(抽選にしたり)いるわけですけど、それでなくても、これもIFですけど、続けてきた熱量があるから、それは消えなかったともいえると。

例えば、一つ言えば、地元紙か何かで選書をずっとやって10年間くらいで1500冊書評してるみたいな話があるんですよね。これもブレイク前からやっているわけで、それが結局自分の選書DBに使えるから、一万円選書のために使えるわけです。こういう努力というと抽象化しすぎですが、取り組みがあって、ブレイクがある。逆にそれがないのにブレイクすると、まあ逆にそこでバーンアウトというか、終わっちゃいますよね。ないものは出せないですから。

僕は町の小さな本屋として、廃業の危機に瀕しながらもなんとか生き残ってきました。何度も心が折れて辞めようと思った時期もありましたが、そのたびに「やっぱり僕にできる仕事は本屋なんだ!」と歯を食いしばってきました。使命というとおこがましいですが、僕は本屋には役目があると思っています。それは面白い本をみんなに薦めることです。売れる本は放っておいても売れる。むしろ、知られざる名作を掘り起こし、世間に知らせていくことこそ本屋の本分であり、醍醐味ではないかと思う

同書、位置: 854より

使命感は人それぞれでいいと思うわけですが、ここで岩田さんは、本屋で踏ん張ってやっていくしかないし、それでやりたいと願った。願うだけでなく、様々な取り組みをこれでもかとやり続けた。その先にあったのが、一万円選書のブレイクといっていいわけです。当然好きで心から「あの人のためにこれはどうか、いや違うか」と考えて丁寧に選書しているからそれが評価されたわけですよね。

当然ここで手を抜いて適当にやっていればお客さんの感動はないわけですから。そこを丁寧にやり抜いてやっていったと。

そういう延長でもありますが、面白い本を薦める、メジャーな大型書店でできないことをやる。例えば、児童書は苦手というか弱いのでそこはタッチしないとか、そういう切り分けをやってみる。棲み分けですよね。

実際に面白い本って、やはり本を読んでいる人しかわからないわけで、そこにアクセスして教えてもらえることの価値を浮き彫りにしたのが「選書」だったんだろうといえます。

「本を売る」視点でなく、お客さんのために選ぶ

2007年の一万円選書の取り組み時の話が面白いです。

打開策のもうひとつは、売り方を変えることです。かつて僕はどうすれば売り上げを上げられるか? そればかりを考えていました。でもどうにもならなかった。ある日、高校の先輩に一万円を手渡されて本を見繕った。僕は気持ちを切り替えて、純粋に先輩のために本を選びました。この時、初めて読者の心情を思って、本に向かい合ったといっていいでしょう。そこに新しい本屋ビジネスのヒントがあったんです。  世の中の2%くらいの人は本が好きで、熱心に読む。残りの 98%の人はそれほどでもない

同書、位置: 1,040より、太字は筆者注

注目すべきは、それまでの2007年までの取り組みは無駄ではないけれど、やはり「本を売るにはどうすればいいか」「売上を上げたい」というところだったんですね。それが全部間違いとは言わないまでも、そこにフォーカスをしていた。しかし、売れなかった。

そこで、一万円選書をする、最初の時にお客さんである先輩のために本を選んだ。これが、転機となったと。その人のために、その人が何を考えてどういう人で、何を思いどう生きているか。深いところに入っていってならば、これがお薦めできるのではいかと。

これが岩田さんのいう選書です。これはなかなかしんどいというか、大変な面はあるけれどそれ以上に先に書いたように嬉しいから、楽しいから出来る。好きということですよね。本を読みストックして、これはいいぞ、これは薦めたいぞ、というわけです。

本を売ろうとする視点はNGではないです。ただ、本を売ろうという視点は実は「サービス側」「事業者側」の都合です。実際には売りたいのは分かるのですが、それってお客側でいえば、なんのメリットもないのに買わないですよね。ベネフィットといってもいい。

面白そうとか、美味しそうとか、なんか気持ちよくなれるとか、痛みを緩和できるとか。機能とか成分だけではないですけど、本はぱっと見てわからないからこそ、何か情報やレビューやお薦めなど何かいるわけです。何もなくて選べないですよね。

その切り口が読み手である、読者、お客さんの内面の旅ですかね、そこを通して考えて選ぶ。そういうプロセスになったし、そういうことで価値が生まれていると言えそうです。

ある種ジョブといっていいでしょう。

例えば、課題だと「お客さんはどんな本を選べばいいか分からない。時間がない。他のエンタメやスマホで本ってなんだかめんどくさい」みたいな感じですかね。

本を薦めれば読んでくれるし、自分の選書でも手応えがある。ならば、単に薦め方が足りないのではないか。それが先の引用の最後の部分になります。

98%の人はそこまで本を読まないというところは批判しているのでなく、実際に本好き2%である岩田さんを含めて読んでいる人が、実は面白いと思うものがあると。その2%のマニアックな人達が好むだけではなくて、2%が面白いと思うものは、実は98%でも、つまり一般の人でも面白いということがわかった。これが最大の収穫というところでしょう。

だから、自信を持ってこれ面白いという。もちろんつまらないとか、合わないなんてこともあるわけですよ。でも、それはそういうものであって、面白いと思えば買えばいいし、そうでないなら無理しなくてもいいと。

ジョブは一万円選書を通して「実は人は内面の語りとか、話を聴いてもらうことをしたかった」のでしょう。だから実は本でなくてもいいかもしれないともいえるんですね。ただ、そこに本を入れることで、継続モデルとできているし、ビジネスとしても、本屋さんなので本を売ることが成り立つ。ここが絶妙のバランスと言えるわけです。ただこれは一朝一夕でできるわけではないなとも思います。

なぜなら、選書自体にお金をいきなり出せる人は少なくて、選書と言ってますが、実際は本を選んで本を送るまでが込みだからですね。つまり本代にプラスで少し選書代くらいがあるのが実際でしょう。これをドライに選書ではお金が取れないとするのか、もっとウェットに、一体型で売っていると現実的と見るかは人次第です。ですが、一つ言えるのはこの選書自体をやり続けられるのは、相当の本好きでかつ、薦めるのが好きとか得意とかでないと難しいなというところです。

ただそれが7年取り組めるかはものさしとしては分からないです。とはいえ、本を読んでストックして、それらがある程度思い出せるようでなければ、というのはやはり必須の条件というか、前提となるので、本を読んでないとまあきついですよね。しかも本を読んでよかったでなく、誰かに薦めるというところまでいくと、また別になってくるんだよなということを感じました。

気づき

簡単に気づきを整理してみます。

本が好き、読むのが好き、さらに薦めるのが好き

岩田さんの情熱というか熱量はここから来るといえそうです。逆に仕事づくりとして選書をしたい人はそれがあるかどうかは、冷静に考えた方が良さそうです。岩田さんは選書モデルもどんどん真似してくれと書いています。しかし、真似したところで、すぐお客がつくとは思えず、実際には書店経営者がこれをやるかは大いに疑問なんですね。なぜなら手間がかかり、大変だからです(笑)

本屋さんである人が必ず本好きとは思っていませんが、とはいえ、あえて本屋をやるくらいだからというのがあるかもしれない。そこはもう分からないですが、岩田さんが書いているように、色々な本屋が色々薦めてくれたほうがまあ僕も面白いなと思いました。

シゴトとして選書をやりたい人は、選書という上っ面でなくて、その人の内面、お客さんに対してどういう切り口がいいか、どういうやり方で提供するか。その解像度ですよね、プロセスや自分なりの持ち味を出していく、それが継続していくことで価値が生まれる。

そういうことを考えると良いんじゃないかと思いました。

その前の、好きとか本が好きはめちゃくちゃ大事ですよね。であればチャンスがあるとも言えるので。

商品やサービスを売ろうとしない。お客さんのためにやる

これは何度も言っていますが、実は売ろうとすると、一気に顧客が見えなくなる現象があります。なぜかというと、人は同時に2視点で考えられないからです。売り手側なら買い手の視点が消えます。しかも、立場として売り手だと買い手側の視点が消え続けやすいです。

実際に冷静に何か機会がないと、抜け落ちていたものは埋められず、消えちゃうんですよね。それが岩田さんにとって、何か選んでよという会話がきっかけだったと。こういうのって後から振り返ればちゃんとあるんですが、そこにたどり着けないとしんどいですよね(笑)

僕もアイデアを出す仕事がアイデアの量ではないかとか、そういう色々なことを考えてどうすれば売れるかと考えていた時期がありました。今も考えていますが、少なくともお客さんのためにならないというか、意味がないとは言わないですが、価値になりづらいことはやめようというのはありました。

いきなり上手くならないので、少しずつ改善していって、今のやり方になりました。お客さんの満足度を高めるためになにかするのであって、売ろうとしてどうかという視点は消失しています。消失というと売れなくてもいいというわけでなくて(笑)売り手側と、買い手側、つまり僕とお客さんが統合されて、ある種一体化する。別に物理的に合体するわけではなくて、概念として一緒に考えるみたいなことですね。

そうすると、僕が喜ぶことがお客さんも喜ぶかもしれない、またはお客さんが楽しいことは僕も楽しいかもしれない。そういう「かもしれない」というのをポジティブに見ると、一回で二回楽しいわけですよ。面白いものが増えるというか。この感覚が出来たら概ね成功といっていい。なぜなら、どちらも損しないというか、徳なんですよね。得よりも徳です。そこで色々と視点や学びが得られてなんか楽しいと。

もっともサービスだからお金や対価、役務という提供がありますよ。でも、それも含めて良かったなと満足する、感動する。そういうのが醍醐味だと思います。

当然僕もアイデア出しの仕事が楽しいです。喜んでもらえるのもですが、僕も学びになることが多いからです。そうやって売るんじゃない、一緒の立場やお客さん目線で入っていって喜び合うみたいなところを考えるのが一つの仕事づくりのコツと言えそうです。

選書サービスはきびしいが、なにかやりたい

選書サービスについては以前検討していてこれはきついなと思いました。僕が本屋なら話は別ですが本屋でもないですから。

ただ、本屋でないが本屋的な立ち回りをして、例えばこうやって本を紹介する記事はいくらでも書けるというか、全部の本は無理ですけど、まあやると。そうやってある種おすすめすることが僕の今出来ることということでやっています。

ページ薬局の瀬迫さんとお話した時も、取り組みとして何をやっていったらいいだろうかということも課題というか、問題意識としてありました。そこで短絡的ではありますが、面白い本屋さんを僕が紹介する、それだけでも一つの取り組みになるんじゃないか。僕は本屋をやって本を売ってまたは何かサービスをして成立できるとは思ってないんですね。そういうアイデアもない。

とはいえ、本に関わることは、全然あきらめてなくて、何かやりたいなと思っています。

今は、おすすめするとか、こういう本があったと伝えることは、実はアイデアサポートでもガンガンやってまして、当然無理に何か本をすすめるのでなくあくまで自然な流れでやっています。そのために僕は本を読むので、それは仕事でもあるんですよね。

とまあ、本関連でなにかやる、本を薦めるとかは常時やれるので、ここも隙きあらば何かやれるように準備して暖めていきたいなと感じました。

というわけで、一万円選書気になればやるのもいいし、この本を読んでもらうのもいいし、シゴトづくりのコツとか、熱量とかのヒントになるかもです!

記事を書いた人

シゴトクリエイター 大橋 弘宜
シゴトクリエイター 大橋 弘宜
ビジネスアイデアメディア「シゴクリ」運営者。まずアイデアを出すアイデアセッターであり、生まれてくるアイデアをビジネス化出来ないかを考え続け、手を動かすゼロイチ大好きアイデアマン。ビジネスアイデア相談やビジネス企画の実績多数あり。毎日生まれるアイデアから世のために貢献していくスタイルです。好きな言葉は三方良し。詳しい自己紹介仕事実績も合わせてご覧ください。お仕事メニューお問い合わせはお気軽にどうぞ。

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